大して面白い話じゃないと思うけど、良一が書け書けって言うので、書きます。
私が大恥かいた、というか、かかされた話。
去年、高校のクラスの同窓会があったわけ。
うちの担任の先生、当時『ハゲの高田』って、まんま呼んでたんだけど、、気さくでキライじゃなかった。
けっこうウチのクラスって、集まりいい方で、クラス会っていうとサーッとメンツが揃う。
仕事の関係で、だんだん人数も減ってきちゃったけど、それでも38人のうち30人前後集まるのでスゴイと思う。
で、去年の夏の終りだけど、ただ集まっても面白くないってんで、仮装パーティーってことになった。
どうせコスプレと勘違いするやつも出るだろうって思ってたけど、
病院のナースセンターでヒマなときに話題にしてたら、
「先生、看護婦やったらウケない?」って言われた。
「ぜんぜん変わり栄えしないじゃん」て言ったけど、結構看護婦のコ達が乗り気で、
キャップと服を貸してくれた。
まあ、着替えの手間が楽そうだし、いいかな…って、ナースやってみるつもりだった。
んで、良一に、「あのさあ、クラス会だけど…」って切りだしたら、いきなり紙袋を持ってきた。
袋開けたら、バニーガール一式。
「ババババ…バカ? あんた。 なによこれ!」
「え? バニーガール。 これ着なよ」
「ヤ!! ダ!!」
「め・い・れ・い。 ご主人様の。 久々の」
「うが~~… …。 はあぁぁぁーぃ」
「あと、お金渡すから網のストッキングとかは自分で買ってよ」
「…はあぁぁぁーぃ…」
思いきりイヤそうに返事した。
相変わらず、修行の足らん奴隷だこと。
良一は、ストッキングは後ろにシームが入ってないとだめだとか、ハイヒールはエナメルだとか、すげーうるさいの。
コアもいいかげんにしろ。
で結局、パーツも揃ってバニーガールやらされることになった。
良一はチャイナのお姉さんで女装系。
けっこう無茶するやん。
ちょっと!
お化粧したら私よりキレイでない?
ずるい~。
バニースーツも、もちろん貞操帯の上から。
今日はプラグのおまけつき。
大人のおもちゃというには本格的過ぎるいつものやつだ。
ちょっとだけ膨らまされた。
「このくらいの方がね、陽子は色っぽい顔すんだよ」
ヘヘン! ごついチャイナのねーちゃんに何言われたって、聞こえないよーだ。
当然、アナルシールドに鍵掛けられた。
「良一は、なんも入れないのォー?」
「俺はいいんだよ!」
なんかずるいけど、まあご主人様だから許してやるか。
バニースーツ着終わったら、背中のジッパーに小さな南京錠を掛けられた。
黒いゴムでコーティングされてるので、目立たないんだと。
「好きだろ?」
そ…そりゃ… 好きだけど…
…これが不幸のはじまり…
同窓会はね、盛況だったのよ。
ジロジロ皆が見たけど、
ストッキングだって、ベージュ・シーム・網の3重履きだから、
まあ、胸までのレオタード着てると思えば…
ちょっと立ち止まってると、お尻がさわさわするから、
何かと思ったら、皆してしっぽを触るのよ。
気持ちわかるけど、汚れちゃうって。 やめてってば。
いつもはガーッとお酒飲んじゃうんだけど、なんか予感がして、私も良一もあまり飲む気になんなくて。
ただ、皆の勢いにのって、オッパイの谷間にライターの代わりに携帯挟んだりしてバカやってた。
そしたら、その携帯がいきなり鳴ってビックリ。 病院から電話が掛かってきた。
病院のポケベルは置いてきたってのに。
あれ?良一は?
壁際でやっぱり電話を受けている。
でけーチャイナねーちゃんだなー あはは…ってそれどころじゃない。
「あ、はい、すぐ行きます」
どうりで駅前がピーポーパーポー騒がしいと思った。
交通事故が2件、火事が1件、心臓発作が1件、あと不明が1件、
一気に集中して、救急外来がパンクだ。
淳ちゃんみつけて、
「悪い! 救急でパニックなの。呼ばれちったよ。」
「おう!がんばってブッたぎってきな! 終わったらあたしの携帯に掛けてよ。2次会で合流しようよ」
「さんきゅ!行って来る」
あれ?良一は?
もう、先に行ったのかな?
家から来るときには、バニースーツの上にスカートとジャケットを着てきたので、他の着替えって持ってない。
元通り着込んで、携帯電話と化粧ポーチと免許や財布を確認して病院へダッシュ!
あ、耳!
ウサギ耳のカチューシャを外し、手で持って走る。
カンカンカンカン!とエナメルのハイヒールで駈けてゆく。
はあっ!
はあっ!
はあっ!
はあっ!
クラス会の会場は、病院とは駅の反対側、学校のある側の大きな結婚式場の一室。
駅の構内を駆け抜け、病院側へ出る。
救急車の散光灯が回っている。
ゲゲ!2台も。
フル稼働だわね。
通用門に回ってるヒマ無いので正面玄関から駈け込み、救急外来へ回る。
まず着替えだ。
さすがに網タイツはまずいでしょ。
ああっ!
背中の鍵ィ!!
たいへんだぁ~~!!!
「りょ、良一は! 京山先生は?」
「さきほどオペ室に入られましたよ。1番です」
インターホーン!!
「オペ室1って、何番?」
「6235」
ずだだだっとダイアルする。
オペ室内はハンズフリーになってるから、居れば出るだろう。
「プーッ!」
「はい!」
「あ、榊田です!京山先生は?」
「いらっしゃいますよ」
「おう!どした」
「あ、鍵!」
「今むりむり!処置中!」
「了解…」
ガシャ。
だめか。やっぱ。
待っていたのは火事で全身熱傷の患者さん。
バニースーツは脱げないとわかったので、そのまま手術準備室に入り、
ロッカーに耳のカチューシャと、蝶ネクタイのカラーと、左右のカフスを突っ込み、
バニースーツの上から、ディスポのオペ着を着ちゃった。
足はサンダルにしないといけないんだけど、網タイツの上からオペ着用の靴下を重ねて穿いて、サンダル履いた。
すんごいズングリで、ごわごわする。
あ!プラグ入れたまま。
しかも、膨らんだまま。
あ~、でも、膨らみが少しで助かった~
よしOK!
オペ室に入る。
ここまで大丈夫なら、あとは普段通り。
さすがに処置中はプラグのことなど全く忘れてた。
処置が一段落してくると、ふうっと思い出し、お尻の穴をきゅっとすぼめたりしてた。
むにゅむにゅってすぼめると、じわじわ~んと甘い刺激が背中を昇ってくる。
ちょっと不謹慎。
しかし、成り行きとはいえ、こんなカッコしてるなんて、患者さんに申し訳なくて…
良一さえもうちょっと気が利いてたら… くそー。
なんとか無事に処置を終えて、搬送される患者を見送り、ほっとして着替える。
…まずい…
入るときは、みんな既に着替えて、オペ室で私だけを待ってた状態。
終わったら、ほぼ全員同時に着替え…
バニースーツ着てるのがバレちゃう…
じーっとモタモタしてたら、「先生、医局でお茶淹れますよ」って声掛けてくれた。
有難いんだけど…
みんなだんだん白衣になったり、ナース服に戻ってゆく。
取り残されちゃう…。
あ~。
う~。
うううう~~~ん。
ばあっ!とオペ着脱いじゃう。
畳んで廃棄函へ。
「わあ! 榊田先生! 何それッ!」
「うひゃ~! バニーだバニーだ!」
「しっぽだぁ~!」
「せせせ先輩~ なにやってんスか?」
どわー!
案の定、みんなに囲まれた。
もう脳天まで真っ赤。
「ああああの、あのね。 クラス会やってる最中に呼ばれたのよ、それでね…」
「先生んとこのクラス会って、先生いっつもそんなカッコしてるの~?!」
「どっかアヤシイ、五反田イメクラ店でバイトしてたんでしょ!!な~んて」
「先生、やっぱり風俗で、バイトしてたんすか?」
「おしえておしえて」
「やっぱり、て何よ!ち!ちが! だからぁ、 ク、クラス会だって…」
「なんで脱いでからオペ着着なかったんですか~?」
「ここここれ脱ぐのにすすすすごい手間かかるのよ。 一刻を争うから…」
「え~? ホントぉ~?」
ひー! たすけてー!
そこへウチの飯山助教授がオペ着のまま入って来た。
間が悪~~!
「… 榊田ぁ、…」
絶句したあと、
「…おまえもか。 向こうは京山が化粧したままやってるよ。 どうなってんだ。
さすがに変態チャイナ男が飛び込んで来た時は何事かと思った」
「良一はまだ掛かりますか」
「ちょっと長いよ。 あ、人数足りてるから、おまえは当直室で休め。
京山が『クレンジング~』って叫んでたぞ」
「アハハ! 化粧落とすのは私が持ってたから…」
「ほんとにクラス会だったんだぁ」
「だから言ったじゃない! …集まりいいけど、マンネリだから、今年は仮装だったの」
「そうだ、熱傷の範囲が広い場合、状態が急変するから気をつけとけよ。
家近いだろうけど、泊まってけ。 当直がオペに入ってて、今だれも居ないんだ」
「はい、わかってます。 そうします」
「んじゃ、お疲れ」
「あ、先生もお疲れさまです」
ペタペタとスリッパの音を立てて、飯山先生が出ていった。
「ほら!散って!散って!見せもんじゃあないよ!」
飯山先生の証言のおかげで、やっと私のペースを取り戻した。
「先生ェ~。 ねぇ、耳着けて、耳。 ネクタイも」
「しっぽ触らせて!」
「お尻きれい~」
「だあーーっ! いいかげんにして!」
「やってやって!」
「見たいです、先輩~」
「富田ぁ。目がやらしい! …しょうがないなぁ 1回だけね」
「やった!」
オペ用の靴下脱いで、ハイヒールを履き、
ネクタイ着けて、
カフス着けて、
「ほらあ!」
一瞬だけポーズを作ってやった。
「カシャ!」
リングストロボが光る。
目に、光の環っかの残像が…
「富田ぁ!それオペ室用だろ!勝手に撮るなよぉ!」
「大丈夫スよ。写真の整理はどうせ俺らの仕事スから。 抜いときますよ」
「まったく~! 教授に見つかったらどうすんのよ」
「リバーサルだからネガ残んないですよ」
「知ってるわよ。 現像上がったら、ちゃんと渡してよね。
医局の雑用の担当表、私が作ってるんだから。 富田の出番、倍にするよ」
「わかってますよ~」
「スライドスキャナで取り込むのもナシよ」
「はーい。 ううむ、するどい」
「はい!おしまい、おしまい!」
「えー、先生もっと見たい~」
「安藤さん、あなた自分で買いなさいね。
あなたのスタイルなら、私よりもっと似合うわよ」
「お疲れ様でした~」
ヤジ馬だけの連中はゾロゾロ出て行った。
耳とカフスとネクタイを取る。
「あれ? ここに入ってた白いスカート知らない?」
「え?知りませんけど。
このロッカーの前に落ちてた布ならさっきクリーニングに持って行きましたけど?」
「そ!それだ! 外に落ちたんだ」
「もうオペ室の汚れ物と一緒になって、地下に行っちゃいましたよ」
「ぎゃー! あたしのスカートぉー!」
さすがに拾い出して着る気にはならない。
なんか、どんどん惨めな状態になる。
とりあえず、いつもの女子ロッカーまで行って、白衣を着よう。
この場で何か着るものを探しても、オペ着以外あるわけない。
夜間とはいえ、オペ着のまま病棟の廊下を歩くのはまずかろう…
もう、このまま行っちゃおう。
ジャケットは無事だったが、ジャケットだけ着るとよけいHなカッコなので、手で持って行く。
バニーの部品とジャケットとポーチを持って、オペ室を後にした。
畳んだジャケットで、それとなく腹から下を隠す。
カツカツカツ!と早足で深夜の病棟を抜けて、ロッカーへ向かう。
う~、知ってる先生に会いませんように!
見られるのはべつにいい。
説明すんのがめんどくさい。
良一はどうしたかな…
化粧したまま処置してるって…ハハ!おっかしい!
変にせっけんで流してドロドロになるより、落とすのを後回しにしたのは正解だろう。
まあ、どうせでっかいマスクで顔見えないからね。
あとで医局でさんざん冷やかされるんだろう。
ざまみろ。
私の鍵をそのままにしたバチじゃ!
…でも、良く考えると、良一は最善の方法を取っている。
患者さん最優先なら、まあ、仕方ないよ。
私だってそうするし。
待合室で隠れてたばこ吸ってる奥山さんと目が合った。
「あ~! だめよ、奥山さん! また吸って!」
「? …だれ?」
あ!つい、声かけちゃった!
化粧ポーチでお尻を隠して、ぴゅーっと逃げた。
あーあ、バカだ私。
やっとロッカーだ。
さすがにここの鍵は持ってるぞ。
ロッカーを開ける。
紙袋を出し、うさ耳他の部品を入れる。
自分の白衣を出す。
院内用のサンダルに履きかえる。
だめだ。
白い病院用サンダルに、黒の網タイツは変過ぎ。
つまさきの部分で、3枚重ね穿きしてるのがまるわかりでカッコ悪~ぅ。
ハイヒールに戻す。
一晩だからいいよね。
やっとマシな格好になった。
自分の白衣には、使い慣れたボールペンやら聴診器が突っ込んであるから、
着ただけでも安心する。
この下がバニースーツだなんて誰も思うまい。ヘヘ。
また病棟へ戻る。
途中、外科の医局に寄って、自分の机から「当直セット」を持ちだす。
あ、さっきの奥山さんが、まだ居る。
「あれ? 先生ェ! さっき通った?」
「… ううん… …通らないよ」
「おっかしーなー。 俺がタバコ吸ってたらサ…」
「タバコ吸ってたの?」
「あ、いけね! やぶへび!」
「もう寝なよ~」
「そうするわ」
「おやすみ」
は~!
当直室ってイヤ。
タバコ臭いうえにキタナイ。
肌身離さず持ち歩いてるPDAに携帯繋いで、ネットを巡回し、掲示板をダウンロードしてまわる。
掲示板読んで、おもしろい小説サイトの新作でも読めば、一晩潰れる。
あ、そうだ。
携帯を掛ける。
「もしもし、淳ちゃん? あ、陽子。 うん。 ごめん。 だめだ。 泊まり。
うん。 そう。 え? うん。アイツも。 そうそう。
また誘ってよ。 うん。 いい、いい。 あ、こんどソコ行こう。 …そだね。 じゃあ」
あーあ。
後ろでみんな楽しくやってる声がするよ~
因果な商売だあね。私も。
でもまあ、好きだからね。
お、あそこに新作が上がってる!
…トイレ行きたい…
良一どうなってんだぁ!
おしっこぉ!
だめだ。
漏れる。
…かといってストッキング破るのやだな。
良一のお金だけど、このシーム入りが一足4000円もした。
もうどうしようもないので、トイレへ入って、バニースーツの股のとこをくいって除けて、
ストッキング越しにじょーっておしっこしちゃった。
思ったほど広がらずに済んだ。
濡れタオルで良く拭いて、シューッてイルガサン掛けといた。
お股を戻す。
あーなんかシットリしてやな感じ。
こんなこと一人で黙々とやってて、なんてまぬけな姿なんだろう。
でもまあ、とりあえずスッキリしたぞ。
小説読もうっと。
っと、その前に…
ナースセンターは…
…6511を押す。
「もしもし。 榊田です。 どう? うん。 あ、はい。 うん。
じゃあ、なんかあったら呼んで。 はい」
とりあえず大丈夫そうだ。
明け方に良一が来た。
「おーう! ご主人様お疲れ!」
「うー! 死んだ」
「エッ?! ステっちったの?」
「違う、俺が。」
「なーんだ。 それより、早く鍵ちょうだいよ」
「え? それ、家だよ」
「バカーーッ!!」
「おー痛て! いきなりぶつなよ」
「おしおきじゃ! トイレも大変だったんだぞー!」
「悪かったって! …でも、どうやったの?」
「… す… …ストッキング越し…」
「ぶわあっはっは!」
「笑うなバカぁ!」
結局良一は朝の6時くらいまで居た。
私はスカート無くなっちゃったので、家に帰ることもできない。
良一は、ちゃっかりジャージがロッカーに入れてあったらしい。
化粧も看護婦さんにクレンジング借りて落としたそうだ。
ずるいや。
良一が一旦家に戻るというので、鍵と着替えを持って来てもらうように頼んだ。
そんなわけで、バニースーツとお尻のプラグからはようやく解放されたが、
翌日の勤務にそのままなだれ込んで、すんごいキツかった。
そんな話なんだけど…
面白い?こんな話。